研究概要 |
生態中に存在する主要な官能基が環境中のトリチウム(T)との間で起こす水素同位体交換反応の難易性を定量的に追究することで,Tが生態系に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを本研究の目的とし,2年度に渡り,(1)T標識ポリアクリルアミド(PAAm)を,所定温度と所定湿度の恒温恒湿器に入れ,この高分子から放出されるT量を,(2)各種未標識ポリ(ビニルアルコール)がHTO蒸気との間で起こす同位体交換反応を,速度論的に追究した。 その結果,以下のことがわかった。(1)温度が高くなるにつれ,T標識PAAmからの散逸T量が増える。(2)湿度90%では,T標識PAAmからのTの散逸形態が変化する。(3)35〜80℃において,各種PVAとHTO蒸気との間でT-for-H交換反応が起こり,この場合,交換に関与する原子はPVAのOH基のHとHTO蒸気のTとである。(4)PVAの反応性は温度の増加とともに増加し,重合度の増加とともに減少する。(5)重合度の増加に伴うこの反応におけるPVAの速度定数の減少割合は,重合度1000付近で変化し,1000以下では減少割合はかなり大きい。(6)重合度1000以下では,PVAの反応性は,温度による影響よりも,重合度による影響を強く受け,重合度が小さいと反応性は大きい。(7)重合度1000以上では,PVAの反応性は,重合度と温度の両方の影響を受け,温度が高いと反応性は大きい。(8)固気系でのT-for-H交換反応は,35〜80℃の範囲では変化せず,35℃での反応性は無視できない。 さらに,本研究で得られた結果は,Tが生態系中の官能基(OH基やNH_2基)に及ぼす影響を定量的に表しており,環境に及ぼすTの影響は無視できないことがわかった。
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