研究概要 |
環境土壌中の水銀の動態および形態を究明するため,土壌水銀のバックグラウンド濃度ならびにその形態および溶出を調査した。平成10年度および11年度の2年間で土壌中の水銀濃度を調査するため,千葉県を中心に,関東地方,関西地方および九州地方の123地域において,一般環境地域の公園,学校,神社・寺,一般宅地など850余地点の表面土壌(<5cm)試料を採取し,分析を行った。その結果,土壌中水銀濃度は0.002〜79ppmであったが,環境汚染のない地殻母岩由来の地球化学的水銀バックグラウンド値は地域に関係なく0.03ppm以下であった。また,人問活動によって人為的水銀種が付加されている一般環境の水銀バックグラウンド値は大都市や地質中央構造線に沿った地域および丹生の名を持つ神社と共に文化の栄えた紀伊半島などにおいてはやや高めであるが,平均的には0.15ppm前後である事が判明した。しかし,実験施設のある学園地区,大病院地区,旧軍事施設地区,大仏鋳造に金メッキを使用した地区,辰砂を顔料として使用した神社などの周辺では1ppmを超える残留水銀が検出された。土壌中の残留水銀の形態を加熱気化分解装置で同定した結果,水銀種はおもに水銀塩化物,有機物結合水銀および硫化水銀であった。しかし,常温で揮散される金属水銀の存在は同定されなかった。また,土壌中の水銀種の溶出実験を行ったが,水銀種は溶液中ではイオンとして化学的には溶解されずに,土壌微粒子に吸着されるコロイド状態を呈していた。環境庁公示の金属溶出試験法を試みたところ,0.45μmメンブランフィルターを通過する水銀種は,水銀含量に関係なく,すべてが約0.1%であった。したがって,土壌中水銀濃度が5ppm以上含有する土壌は風化や劣化をともなう状況において,酸性雨などの水質によって,土壌の汚染に係る環境基準値の0.0005ppmを超える水銀溶出が起る恐れがあることが判明した。
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