研究概要 |
風蓮湿原で群落の分布と水文気象環境や水質環境の相互関係を検討し,高塩類水素(地下水涵養)を好むスゲ群落中に低塩類水質(降水涵養)で優占するチャミズゴケのハンモック(小丘)が混在する"mixed mire"の成立機構を解析した。風蓮川左岸から丘陵緑までの幅1400mの湿原帯は,川に向かって緩やかに傾斜し,丘陵緑から200mまでmixed mireが分布し,これにより川側はス水収支式による湿原水の流出特性によると,mixed mire中での流出は降雨直後に一時的に起こり,その後すぐに停止するため水位が安定していることが判明した。これは,水位が地表面より2cm程度上昇すると,湿原表面の孤立していた水溜まりが連続し,傾斜に沿った表層水流が発生するためである。2年間にわたる風蓮川の水位観測によると,最高水位時にはスゲ群落に氾濫河川水は流入したがmixed mireにまでは到達していなかった。ECや塩類濃度の分布を見ると,これらの値は測定日間で大きく変動したが,平均すると丘陵側と川側で高く,湿原中央部に向かって減少するという傾向を示した。川側では,湿原内の水質は,川に近いほど塩類に富んだ河川水の流入の影響を受けていることを示している。また,丘陵上は,放牧地となっており,ここから多量の塩類が上記の流出機構によって,湿原内部を汚染していることが推定される。 mixed mireは湿原水位が安定する流出機構のもとで,河川氾濫水の到達しない丘陵付近に発達しているものと思われる。mixed mireではハンモックの高さが50cm以上にまで隆起しているために,ハンモックの上部は放牧地由来の塩類に富んだ表層水の影響を受けずに降水涵養な水質を維持している。しかし近年丘陵では放牧により表層水質が富栄養化したために,ヨシなどの高塩類を好む植物がハンモック間の窪地に侵入し,mixed mireの群落種組織が変化した。
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