研究概要 |
トリプトファナーゼにおけるD-トリプトファンに対する活性部位とL-トリプトファンに対する活性部位との位置関係を決定する目的で本研究が行われた結果以下のような成果が得られた。 1.反応は高濃度のリン酸水素2アンモニウム中で行うので,基質であるトリプトファンがラセミ化する可能性ある。そこで反応中のトリプトファンをクラウンパックで分割しCD検出器でチェックした。この結果,トリプトファンのラセミ化の可能性は無いということが分かった。 2.L-トリプトファン分解時の阻害剤としてピルビン酸カリウム,インドールピルビン酸が用いられそれぞれそれらの阻害型が調べられた。その結果,前者は競争型,後者はリン酸水素2アンモニウム濃度とともに競争型から非競争型に変化した。 3.γ線照射されたトリプトファナーゼにたいして,D-トリプトファンはリン酸水素2アンモニウムの有無に関係なく競争型阻害を示すだけであった。 4.以上のデータに基づいてD体とL体に対する活性部位の関係を明らかにすることができた。すなわち,リン酸水素2アンモニウムによるトリプトファナーゼの構造変化でD-トリプトファンのヘテロサイクリック部分の結合部位はL-トリプトファンのそれとは異なる位置で結合する。その位置はD-トリプトファンにとってトリプトファナーゼの触媒部位とちょうどうまく接触できるような角度にあると考えられる。その結果,D-トリプトファンは活性になるのである。 5.このことからいままで酵素の立体選択性は厳格であると考えられてきたけれども,必ずしもそうとはいえず酵素周囲の環境の変化によってそれは変わりうるものだということがわかった。 6.今後は,キラリティーの選択性に影響を与える酵素の構造変化とはどのようなものなのか定量的に調べたい。
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