研究概要 |
植物が生産するモノテルペノイドは,酵母や細菌あるいは他種植物に対して,他感作用的な成長阻害活性があることが広く知られており,植物がモノテルペノイドの生合成能を獲得したのは自己防衛のためと考えられている。平成10年度には,ゲラニオールなどのモノテルペノイドがゼニゴケ培養細胞にとってストレスとなり,その植物をアポトーシスに導くことを中間報告した。平成11年度は高等植物のゲラニオールによるアポトーシスに関して研究を展開し,種を超える6種の植物(タバコ,セロリ,ダイズ,キュウリ,カミツレ,シロイヌナズナ)を用い,いずれの植物においてもゲラニオールに強いアポトーシス誘導能があることを見い出した。次に,ゲラニオールと共に各種植物ホルモンを投与し,それによってアポトーシスの開始時間が遅延するかどうかを調べた。その結果,ゼアチン,カイネチン,イソペンテニルアデニンなどのサイトカイニン類を共存させたとき,アポトーシスの回避には至らなかったが,アポトーシス開始までの時間が遅延することがわかった。さらに[8-^3H]AMPを用いて,セロリ培養細胞中のイソペンテニルアデニンの生合成過程をトレースした。その結果,通常の細胞ではイソペンテニルアデニンへの[8-^3H]AMPの取り込み量は取り込み開始後5時間まで上昇を続けるのに対し,ゲラニオールを投与した細胞の場合には,[8-^3H]AMPは2時間後からイソペンテニルアデニンに全く取り込まれなくなった。これらのことより,高等植物のアポトーシス過程ではゲラニオールがイソペンテニルアデニンの生合成過程を阻害し,細胞内のサイトカイニン量が減少することがわかった。一般にサイトカイニン類は葉緑体の維持をつかさどっているホルモンであるので,サイトカイニンの急激な減少は葉緑体を崩壊させる。我々はこれまでに,動物の場合と同様に植物においてもアポトーシスの最終シグナルは活性酸素種であることを示しているが,葉緑体の崩壊は光合成初期反応で派生する活性酸素種の解毒・除去を困難にし,細胞内に活性酸素種が蓄積し,このことがアポトーシスの実質的な「引き金」になっていることを明らかにした。
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