本科学研究費助成期間中研究は、ほぼ目的通りに進み、以下の点を明らかにし、その一部については既に専門雑誌に論文として報告した。 (1)高・低転移性株細胞間の腫瘍組織形成における細胞外マトリックス依存性の違いは、間質型細胞外マトリックスの主要成分であるフィブロネクチン(FN)基質に対する接着応答性の違いとして反映される。即ち、低転移性のP29株細胞では、FN接着依存的に接着斑/ストレスファイバー(SF)形成が誘導されるのに対して、高転移性のLM66-H11株細胞では、ラフリング膜(RM)形成が誘導される。 (2)両株細胞のFN基質に対する細胞応答性の差異は、FN受容体であるインテグリンα5β1と細胞表層へパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)との協調作用の有・無による。即ち、両受容体がFNと同時に結合すると、その結合シグナルはSF形成に、インテグリンα5β1のみで結合するとRM形式に、シンデカン-2のみで結合するとフィロポデイア(FP)形成に、変換される。 (3)インテグリンα5β1と協調的に作用する機能を有する細胞表層HSPGは、シンデカン-2である。このシンデカン-2は、同一のタンパク芯に対して3本のヘパラン硫酸鎖と1本のコンドロイチン硫酸鎖を有するハイブリッド型プロテオグリカンであり、ヘパラン硫酸鎖に含まれる[ IdoA(2-OSO_3)-Gl_cNSO_3(6-OSO_3) ]_6糖鎖構造で、FNのC-末端ヘパリン結合ドメインに結合する。 (4)P29株細胞は、シンデカン-1〜-4、グリピカン-1およびグリピカン-4を細胞表層HSPGとして発現しているが、インテグリンα5β1と協調的に作用する分子種は、上記のごとくシンデカン-2のみである。 (5)両いずれの株細胞においても、FN接着依存的な各種アクチン細胞骨格形成誘導のためのシグナル伝達には、両受容体とも細胞膜上でクラスタリングされることが必要である。
|