研究概要 |
神経細胞接着因子(N-CAM)に特徴的に見いだされるポリシアル酸の発現は組織特異的であり、発現時期が厳密にコントロールされている。申請者らは2種のα2,8-シアル酸転移酵素遺伝子(STX, PST)をクローニングしている。しかしこれらの酵素がどのようにポリシアル酸の発現制御に関与しているかということについては依然不明である。本研究では細胞レベルでのポリシアル酸の発現がこれら2種のポリシアル酸合成酵素によってどのように制御されているかを明らかにすることを目的としている。当該研究期間の以下のことを明らかにした。 1)マウスのPST遺伝子のゲノム構造を明らかにし、そのプロモーター領域について解析した。その結果、以前明らかにしているマウスSYX遺伝子とゲノム構造はよく似ていたが、プロモーター領域に存在する転写モチーフは全く異なっており、2種のポリシアル酸合成酵素の発現がそれぞれ全く別に転写制御されていることが明らかとなった。 2)ポリシアル酸を発現していないマウスの神経芽腫瘍細胞Neuro2aにそれぞれSTXあるいはPSTのcDNAを導入しポリシアル酸合成酵素を過剰発現させたところ、STXのcDNAを発現させた細胞ではN-CAMの140kDaと180kDaの2つの分子種だけが特異的にポリシアリル化されたが、PSTのcDNAを発現させた細胞においてはそれらに加え、N-CAMの120kDa分子種及びN-CAM以外のタンパク質もポリシアリル化されていた。従って細胞内では2種のポリシアル酸合成酵素の糖タンパク質に対する基質特異性は異なっていることが示唆された。 基質糖タンパク質側の糖鎖構造に注目し、フコースを含む糖鎖を合成できない変異株CHO Lec13をもちいてin vivoにおけるポリシアル酸の合成と発現の解析を進めた。その結果、変異株CHO Lec13でのポリシアル酸の発現は親株に比べて著しく低かった。糖鎖構造の解析ならびにパルス-チェイス実験の結果、変異株CHO Lec13でのポリシアル酸の発現の低下はおもに、N-結合型糖鎖のα1,6-Fucoseが存在しない基質糖タンパク質(N-CAM)へのポリシアル酸合成後、ポリシアリル化糖タンパク質が分解されることによるものであることが判明した。
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