研究概要 |
好熱性細菌Bacillus sp.SAM1606株の耐熱性α-グルコシダーゼは,α-グルコシダーゼとしては最も幅広い基質特異性と高い糖転移活性をあわせもつユニークな酵素である.糖転移活性や生成物特異性におよぼす活性部位近傍アミノ酸残基について知見を得るため,シュクロースからの転移三糖の生成を指標にして,活性部位近傍アミノ酸残基の1重ならびに多重変異型酵素の糖転移活性を評価した. 野生型α-グルコシダーゼ遺伝子にMet76Asn,Arg81Ser,Ala116Val,Gly273Pro,Thr342Asnおよびそれらの多重変異(合計16種類)を導入し,変異型酵素遺伝子をicpプロモーターの支配下で大腸菌W3110株の菌体内に大量発現させた.α-グルコシダーゼの精製酵素標品をシュクロース(終濃度,30〜60%)と60℃で反応させ,反応液の糖組成変化を順相ならびに逆相高速液体クロマロマトグラフィーにより経時的に分析した.その結果,変異Gly273Proを含む変異体においては,オリゴ糖の生成初速度が野生型酵素のものよりも著しく増大し,糖転移反応の位置特異性も野生型のものと異なることがわかった。生成オリゴ糖の構造解析の結果,Gly273Proを含む変異体における主な糖転移反応生成物はイソメレチトースであったが,野生型酵素を含む他の変異体における主な糖転移反応生成物はテアンデロースであった.以前の研究から,Gly273Pro変異は本酵素のトレハロース認識に大きな影響を及ぼすことが示されていたが,本研究の結果から,この変異は糖転移反応の反応性や位置特異性の決定にも大きな影響を及ぼすことが示され,本酵素の特異性発現における273位のアミノ酸残基の重要性が示唆された.
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