研究概要 |
大腸菌転写終結因子Rhoは単一のサブユニットからなる環状6量体の構造を持ち,ATPの加水分解のエネルギーを利用しながら新生RNA鎖を鋳型DNAから解離させるヘリカーゼとしての機能を果たす.本研究では、Rhoの分子機構をさらに掘り下げるために,当因子とF_1-ATPaseの間の相同性に着目して,次の2側面から解析を進めた. 1)Rho ATPase反応の高速キネテイックス(オハイオ州立大学S.Patel博士との共同研究):ATPase反応開始初期過程におけるATPの結合量と加水分解速度の変化を追跡したところ、最初に3分子のATPが6量体に結合し,直ちにADPに変換された後、乖離することなくサブユニットに強固に保持されたまま留まることが分かった.さらに,6量体がその状態に移行した後に,残る3個のサブユニットの上で速やかな加水分解が定常的に進行することが見い出された.これは,従来F_1-ATPaseで知られていた反応様式と極めて良く似ている.従って,RhoとF_1-ATPaseとは,1次構造上のみならず,ATPaseとしての基本的反応機構においても共通性を持つことが確証された. 2)Rto6量体の立体構造再構成(ヴァージニア大E.H.Egelman博士との共同研究):Rho6量体の電顕像に最新の画像解析手法を適用することにより,その立体構造を20Å弱の解像度で再構成することに成功した.これにより,我々が従来提唱してきた6回転対称構造が直接的に証明され,この分野で長く続いていた重要な論争の一つに終止符が打たれた.さらに,環状6量体の片面にRNA結合ドメインが結合部位を外側に向けた形で王冠状に配列していることが明確になった.この立体構造にF_1-ATPaseの作用機構メカニズムからの類推を重ね合わせることにより,Rho6量体は王冠部でRNA鎖の緒にまず結合し,ついで後続のRNA鎖を中心穴を通して手繰り寄せるという新しいモデルを提出した.
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