研究概要 |
肝臓を構成する細胞(肝細胞)は,胎生中期に心臓の間質系細胞の刺激を受けて分化する腸管上皮細胞に由来している.その後,肝細胞は胎生後期から新生児期にかけて数段階の成熟プロセスを経た後に最終分化を果たし,多彩な代謝機能を発現する細胞へと分化する.本研究においては,肝発生の分子機構を解明することを目的として,マウス胎仔由来の初代培養肝細胞系を確立し,その分化誘導を引き起こす因子の検索を行った.その結果,IL-6ファミリーサイトカインの一つであるオンコスタチンM(OSM)を同定した.OSMはグルココルチコイドの共存下で新生仔期以降に発現する肝分化マーカーの発現誘導や細胞間接着の増強,細胞周期関連遺伝子の発現抑制などを引き起こした.次に,OSM受容体サブユニットの一つであるgp130を欠くKOマウスを解析したところ,肝分化マーカーの発現や糖代謝機能の低下を認め,OSMのシグナルが生体内でも機能している可能性が示唆された。胎生肝中でのOSMの発現はCD45陽性の血液細胞に認められ,逆にOSMの特異的受容体は接着性の肝細胞に発現していた.したがって,OSMは血液細胞によって産生され,隣接する肝実質細胞に作用するパラクライン因子であると考えられる.他方,胎生期の肝臓は,胎生造血器官として必須の役割を果たしている.我々が開発した培養系は,肝造血をin vitroで再構築する能力を持ち,造血肝細胞と共培養することにより,未熟な細胞を含む多系列の血液細胞を産出した.さらに,OSMを添加して支持細胞(胎生肝細胞)の分化・成熟を誘導すると,造血支持能が顕著に低下した.以上の結果から,OSMは肝発生の促進ならびに肝造血の停止を制御する因子である可能性が示唆された.
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