研究概要 |
Rasファミリーは低分子量GTP結合タンパク質の一つのサブファミリーで,Ras(H,N,K-Ras)やR-Ras,Ral,Rapなどを含み,細胞の増殖や分化の制御を行っていると考えられることを第一の目的として,IL-3依存性プロB細胞由来BaF3細胞と筋芽細胞由来C2Cl2細胞を用いて実験を進めた.その結果,R-RasはRasと同様にBaF3のIL-3除去による細胞死を抑制できることが明らかとなった.但し,Rasは細胞死抑制に重要なAktとERKの両キナーゼを活性化できるために単独で細胞死を抑制できるのに対して,R-RasはAktのみを活性化するために,細胞死を抑制する際にはERKの活性化因子であるIGF-1の共存が必須であることが明らかとなった.一方,C2Cl2においてはRasとR-Rasは異なった役割を果たしていることが示唆された.C2Cl2の筋管細胞への分化においては,Rasが分化を抑制するのに対して,R-Rasは分化を促進した.他方,FGFやHGF,IGF-1といった因子によって誘導される走化性移動においては,R-RasよりもRasが重要な役割を果たしていることが明らかとなった.この結果から,筋発生においては,RasとR-Rasが時間的かつ空間的に異なる制御を受けることによって,各々走化性移動,細胞分化という異なった役割を果たしている可能性が考えられる.また,本研究ではRalが,Rasによって誘導される足場非依存性変異を持つHT1080細胞は足場がない状態でも増殖できるが,この増殖はRalの活性型変異体を発現させると著しく促進された.逆にRalの優勢抑制型変異体は足場非依存性増殖を抑えた.HT1080の足場非依存性の増殖がN-Rasの活性型変異に依存していることから考えて,この結果はRasの下流でRalが足場非依存性増殖に関与していることを示唆している.さらにRalの下流で抑制を受けている細胞周期関連遺伝子の検索を試みた結果,HT1080を足場非依存下で培養した場合に観察されるp27(Kip1)の蓄積がRalによって制御されることを見いだした.これらの結果から,Ralはp27の制御を介して,Rasによって誘導される足場非依存性増殖を促進している可能性が考えられた.
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