研究概要 |
本研究では,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)による好中球前駆細胞の増殖・分化の分子機構を解明することを目的とした。まず,好中球の増殖・分化に関与するZnフィンガー転写因子であるMZF-2の種々の変異体を作成して転写活性化能を解析した結果,N末端領域(1-117a.a)は転写に抑制的に働くこと,それよりC末端側の50アミノ酸残基から成る領域(318-367a.a)には強い転写活性化能が存在することが分かった。この領域はホメオボックス型転写因子であるPax6の転写活性化領域と顕著な相互性を示し,両者の転写制御に共通の機構が関与することが示唆された。転写活性化領域のみからなるMZF-2変異体が優性ネガティブに作用することなどから,この領域が骨髄細胞に特異的な未知のコアクチベーターと相互作用することが示唆された。また,G-CSF刺激によって活性化されるMAPキナーゼの標的プロテインキナーゼのひとつであるMNK1の生理的機能を明らかにするために,MNK1の構成的活性型変異体や,優性ネガティブ変異体を作成した。これらの変異MNK1を発現させた細胞における翻訳開始因子4E(eIF-4E)のリン酸化レベルを解析した結果,MNK1がeIF-4Eのリン酸化を介してタンパク合成開始の制御に関与する可能性が示唆された。MNK1は翻訳開始因子4G(eIF-4G)と会合してeIF-4Eをリン酸化することも明らかになった。一方,細胞周期の制御に関与するCyclinE/Cdk2プロテインキナーゼの基質スクリーニングを行ない,出芽酵母のAse1pと相同性を有するヒトのタンパク質(PRC1)をCyclinE/Cdk2の新規な標的タンパク質として同定した。PRC1は細胞質分裂の時期に中央体(midbody)に局在化し,細胞質分裂の制御に重要な役割を果たすことが明らかになった
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