研究概要 |
生体には複数のβ-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalT)が存在し、糖タンパク質糖鎖は複雑なプロセスで作られていることが明らかとなりつつある。細胞が癌化すると、その糖タンパク質糖鎖は高分岐化し腫瘍抗原は発現し、腫瘍形成や転移に関与する。癌化の過程でβ-1,4-GalT I-VIまでの遺伝子発現の変化を解析した結果、β-1,4-GalT I,III,IV,VI,には有意な変化はなかったが、β-1,4-GalT IIは減少し、β-1,4-GalT Vは増大することを見い出した。そこでヒト大腸癌SW480細胞やマウス・メラノーマF10細胞にβ-1,4-GalT IIのセンスcDNAやβ-1,4-GalT VのアンチセンスcDNAを導入し癌細胞の悪性度を減少させることができるかどうかを解析した。その結果、β-1,4-GalT IIのセンスcDNA導入細胞の糖タンパク質糖鎖ではRCA-I,DSA,L-PHAのレクチンとの反応性が増大し、またβ-1,4-GalT VのアンチセンスcDNA導入細胞ではRCA-I,L-PHAとの反応性が減少し、糖鎖構造に変化が見られた。次にβ-1,4-GalT IIのセンスcDNAやβ-1,4-GalT VのアンチセンスcDNAを導入したF10細胞をC57Bマウス皮下に移植すると、対照細胞に較べて造腫瘍能が低下した。以上の結果から、β-1,4-GalT IIやβ-1,4-GalT Vので作られる糖タンパク質糖鎖は、細胞の増殖に何らかの形で関与していると考えられる。このように癌細胞ではβ-1,4-GalT II,Vの発現レベルを変化させることによりその性質を変えることができるので、今後神経細胞などで同様な研究を行い、β-1,4-GalTs I-VIの酵素で作られる糖鎖の生理学的機能を明らかにしてゆきたい。
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