研究概要 |
分裂病の病態モデルとされるラットのPPIの値は個体毎にほぼ一定であった。そこでこの個体差に注目し、PPI測定後に断頭し前頭前野、側坐核、線条体のDAおよび3,4-dihydroxyphenyl acetic acid(DOPAC)濃度を測定した所、PPIの値と側坐核のDAとDOPAC量に最も高い逆相関を認めた。さらにラットを低PPI群と高PPI群に分け、側坐核スライスからの刺激誘発性DA遊離に対するDA受容体作動薬の抑制作用を比較すると、apomorphine(APO)のDA遊離抑制作用が低PPI群で減弱していることを認めた。すなわち低PPI群では側坐核DA神経終末の自己受容体の機能低下があり、DA作動薬によるDA遊離の抑制が減弱した状態にあると思われる。PPIの減弱はN-methyl-d-aspartate受容体遮断薬(Phencyclidine,PCP)をラットに投与しても認められる。そこでPCP及びAPOにより減弱したPPIに対する各種抗精神病薬(spiperone,haloperidol,clozapine,chlorpromazine,pipamperone,seroquel,risperidone,olanzapine)の拮抗作用の力価を同一条件下で調べた。 APOによるPPIの減弱に対する各薬物の拮抗作用の力価(ED50)はそれぞれのDAD2受容体親和性と正の相関を認め(P=0.0008)、PCPによるPPIの減弱に対する各薬物の拮抗作用の力価とそれぞれのserotonin2A受容体親和性との間に高い相関を認めた(P=0.0011)。すなわちAPOまたはPCPによる減弱はそれぞれDAD2受容体またはserotonin2A受容体の活性化を介して独立して生じることが示唆された。またσ-1受容体リガンドであるMS-377はPCPにより減弱したPPIを用量依存性に拮抗し、σ-1受容体リガンドの抗精神病薬としての可能性を示唆した。PPIを指標とした研究から情報処理障害に関連する様々な神経系の相互作用の解析を通じて新しい戦略に基づく抗精神病薬開発や、分裂病の病態解明の糸口になることが期待される。
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