神経幹細胞は自己増殖能を持ち、種々のニューロンやグリアに分化する。我々は、この神経幹細胞の分化過程を解析する第一歩として、マウス胎児の頭部から神経幹細胞を分離し、分化過程において発現量が変化する遺伝子の同定を試みた。26種類の5'側プライマーと4種類の3'側プライマーを用いて、104通りの組み合わせでDifferential Displayを行なった。その結果、各PCRにおいて100から150本のバンドを検出し、全体で1万種以上のmRNAの発現を検討することができた。我々は、発現量が増加する遺伝子を14クローン、減少する遺伝子を9クローン、一過性に発現する遺伝子を9クローンを得た。 またこの解析過程で、細胞分化にともなって発現量が減少する遺伝子として、新規膜蛋白質をコードする遺伝子をクローニングした。NotchとDeltaは種々の分化において、その分岐点を調節しているが、この遺伝子は分岐したDeltaをコードしており、最も早生れのニューロンの一部に選択的に発現する。哺乳類の大脳皮質は、基本的に6層からなる層構造をとっている。大脳の発生において、脳室側で生じた最も早生れのニューロンは表層側に向って移動し、preplateという一過性の層を作り層構造形成を調節していると考えられている。この新規Delta遺伝子は、preplateの一部であるsubplate neuronに選択的に発現する。従って、この新規Delta遺伝子は、はじめて同定されたsubplate neuronのマーカーであり、かつ、層構造形成に関与している可能性が高い。
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