研究概要 |
オリーブ蝸牛束神経は上オリーブ核群に属する神経細胞にその源を発し、第IV脳室直下を走るオリーブ-蝸牛束(OCB)と呼ばれる特徴的な線維束を形成し、蝸牛に投射する。以下この遠心性神経細胞群をOCNと略す。OCNは大部分コリン作動性神経より成り、その解剖学的位置により、外側と内側のOCN(LOCN,MOCN)に分類される。これら二つのOCNは求心性聴覚伝導路及び聴覚中枢からの投射を受け、蝸牛に反射弓を作り、その機能を調節することが知られている。しかしその機能を司るであろうCON細胞から直接電気生理学的な反応を記録した実験はこれまで無かった。申請者等は蝸牛に標識物質を充填、逆行性にOCNを生体染色し、これらの神経細胞からの細胞内記録に成功した。本研究の目的は2種のOCNへのシナプス入力の詳細を明らかにし、OCNの生理学的機構を明らかにすることにある。平成10年度は、(1)聴覚求心性伝導路核-OCN間、下丘-OCN間のシナプス伝達機序について主に研究を行った。LOCNは求心性聴覚伝導路核である同側の後腹側蝸牛神経核(PVCN)からの投射をうける。この投射経路は同側のLSOのを貫通し、LOCNの腹側から神経支配する。従ってLOCNの腹側部を電気刺激すれば主にPVCNからのシナプス応答を記録できると思われる。またMOCNもその腹側からPVCMからの投射を受けるが、この神経群の場合は両側性の投射である。また下丘からの投射もうける。スライス標本で、LOCN,MOCNの近傍を刺激して、PVCNなどからのシナプス入力を調べ、glutamatergic,GABAergic、Glycinergicな入力を受ける事を明らかにした。平成12年度は更にこの研究を発展させ、OCN細胞とLSO主細胞ではグルタミン酸受容体の性質に違いがあることを明らかにした。また(2)OCN間のシナプス結合についても検討した。LOCN細胞おけるnicotinic AchRの発現を明らかにした。また、Achが興奮性シナプス終末に働き、伝達物質の放出を促進する事を見いだした。シナプス入力としての存在を明らかにする目的で、nicotinic mEPSCを記録することを試みたが、失敗に終わった。LOCN細胞が協調して働く可能性を今後さらに、追及したい。
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