研究概要 |
MGMT遺伝子欠損マウスに3種類のアルキル化抗癌剤を投与してその感受性を野生型マウスと比較した。ダカルバジンに対する感受性LD_<50/30>の値で比較したところ,野生型マウスは450mg/kgであったのに対しMGMT遺伝子欠損マウスでは20mg/kgと20倍以上高い感受性を示した。これはMGMT遺伝子がコードするO^6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼの活性がダカルバジンに対する感受性を個体レベルで決定していることを意味する。この酵素はDNA中のO^6-アルキルグアニンとO^4-アルキルチミンを基質とするDNA修復酵素であることから,これらのアルキル化塩基を生成することがこの薬剤の作用機序の1つであるといえる。別の種類のアルキル化抗癌剤であるACNUに対する感受性にも差がみられたが,サイクロフォスファマイド投与では差が観察されなかった。このことはアルキル化抗癌剤と呼んでいる1群の薬剤は,その作用機序によりさらに分類可能であることを意味している。 MGMT遺伝子欠損マウスはアルキル化剤に対する感受性を除けば,生殖能力,外見上とも野生型マウスと区別がつかないことから,ヒト集団中にも同様の個体が存在することが予想される。一方でヒト癌細胞株の中にはこの酵素活性を欠損しているものが存在することも知られている。化学療法を開始する前に,癌と血球,それぞれの細胞の酵素活性を測定することで,アルキル化抗癌剤の効果と,それに起因する副作用の程度を予測することが可能になるのではないかと期待している。
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