研究概要 |
Helicobacter pylori(H.pylori)の持続感染が胃炎あるいは胃潰瘍の原因となっていることは周知の事実である。一方、ヒトにおける疫学的調査より、H.pylori感染が胃癌の発生と関運していることが示唆されているが、H.pylori感染と胃癌の発生を証明する動物モデルはほとんどない。われわれは、まずH.pylori感染マウスモデルを作成するため、H.pylori標準株であるATCC43504株,臨床分離株であるCPY2052,CPY3401,HPK127株など8株を、C57BL/6マウスに胃ゾンデを用いて胃内投与し、H.pyloriの胃内定着をPCR法および培養法で経時的に検討するとともに胃炎および胃癌発症の程度を病理組織学的に検討した。その結果、8株中3株がマウス胃内に持続感染すること、CPY2052株のみが胃炎および胃潰瘍を惹起することを明らかにしたが、H.pylori単独感染では胃癌の発生は認められなかった。そこで、H.pylori持続感染マウスに発癌剤N-ethyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)を投与することにより、発癌率に及ぼすH.pylori感染の影響を検討した。実験群として1)対照群、2)発癌剤単独群(ENNG 100ppm)、3)H.pylori感染群、4)H.pylori感染+発癌剤の4群を作製し、発癌剤およびH.pylori投与50週後に胃および十二指腸を採取し、胃癌発症を病理組織学的に検討した。その結果、H.pylori感染+発癌剤群ではH.pylori感染群に比べadenomatous hyperpiasiaの発生頻度が高かった。また、H.pyloriの代わりにH.felisを用いた結果、H.felis感染+発癌剤群で有意にadenomatous hyperplasiaの発生頻度が高かった。以上の結果、H.pylori感染は発癌剤による発癌効果を増強している可能性が示唆された。また、このH.pylori感染マウスモデルは病態形成機構の解析、新薬のスクリーニング・ワクチンの開発に有用であると考えられる。
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