研究概要 |
野生の動物が示す多様な行動を制御する遺伝的プログラミングを解明し、行動の進化の問題にアプローチするために、野生由来マウスを用いた行動遺伝学を進めている。これまでに、野生由来の系統と一般的実験用系統を用いて様々な行動テストを行い、各マウス系統の行動パターンの解析を進めてきた。野生マウスに由来する8系統(BFM/2,NJL,BLG2,HMI,CAST/Ei,KJR,SWN,MSM)、日本産愛玩用マウスに由来する系統(JF1)と一般的な近交系統2系統(C57BL/6J,DBA/1)を用いて自発運動性、情動性、学習記憶能力、痛覚などの行動解析を行った。その結果、行動には野生由来系統間で大きな多様性があることが分かった。 このような系統間での行動パターンの違いをもたらす遺伝子を探索するためには遺伝学的解析が不可欠である。遺伝的解析の第一段階として、今回行動解析を行った系統について遺伝的マイクロサテライトマーカーの多型性を解析した。方法としては104遺伝子座のマイクロサテライトマーカーをPCR増幅した後、SSLP法により解析し、全系統の総組み合わせで各々の多型頻度を解析した。その結果、共に実験用系統であるC57BL/6とDBA/1系統、共に日本産マウスであるJF1とMSMの二つの組み合わせでは、多型頻度が50パーセント以下になり、遺伝的に非常に近いことが分かった。しかし、実験用系統と日本産マウス系統の間ではどの組み合わせにおいても多型頻度は80パーセントを超え、遺伝的に異なっていることが分かった。更に、韓国産マウス系統のKJRとSWN、それに日本産マウス系統のJF1とMSMの合計4系統は多型頻度が70パーセントかそれ以下で、遺伝的には近いグループに属することが分かった。 現在、これまでの研究で得られた結果をもとに、自発運動性と学習記憶能力の系統差に関わる遺伝子をそれぞれ探索するために、表現型の差を示す系統を交配し、交配個体群を用いた行動の遺伝学的解析を進めている。
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