他者の情動を判断する過程は、表情をはじめとした多くの情報を統合するプロセスである。本研究では、情動判断に際して表情と情動喚起刺激、状況などの文脈情報とがどのように寄与し、相互に影響しあっているのかを解明することを目的とした。 表出者の感情の判断における表情と情動喚起刺激の相対的重要性についての検討をさらに進めるため、表情と情動喚起刺激という2つの情報源(刺激)の提示順序、表情が撮影された状況(社会的状況・私的状況)、判断者の性別を独立変数にした実験を実施した。全体としては、感情の判断に際して表情より喚起刺激が重要であるという結果となった。この喚起刺激の相対的重要性は、刺激提示順序と判断者の性別に応じて変動していた。つまり、表情が先に提示される場合よりも喚起刺激が先に提示される場合の方が、より喚起刺激の重要性が高まった。また、男性より女性の方が順序に対応した判断をしている可能性が示された。一方、社会的状況では喚起刺激の相対的重要性が増し、私的状況では表情が相対的に重要になると予想したが、このような状況の効果は得られなかった。 刺激を同時に提示した実験の結果では表情が喚起刺激よりも重視されることが見いだされていることから、本実験の結果は、刺激を継時提示したことによるものと考えられる。刺激を一つずつ一定時間見ることのできる継時提示の場合には異なる刺激から同等に情報を得ることができるが、同時提示の場合は限られた時間の中で選択的に一方の情報を重視する可能性がある。今後はこのような選択的注意のプロセスが感情判断においてどのような役割を果たしているかを検討していく必要があるだろう。
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