研究概要 |
本研究では大学生並びに30〜60歳代の方を対象に自伝的記憶の反復想起を求め,1)どのような出来事が繰り返し(安定して)想起されるのか,2)安定した想起傾向を示すのはどのような人か,3)自伝的記憶を想起することに対して,人はどのような効用を感じているのか,等々の問題を検討した。 方法:約8週間の間隔を置いて2回,本人にとって重要な出来事を8項目想起し質問紙にその内容を簡潔に記述することを求めた。あわせてその出来事を経験したときの感情,感情強度,この出来事の重要度と影響度の評定を求めた。また自伝的記憶の想起とは別に,現在並びに過去の生活に対する満足度,回想頻度,回想の効用に関する認識等を問う質問紙調査を行った。 結果: 1)青年群よりも壮年群の方が,2回の想起で共通の出来事を想起しやすく,自伝的記憶の想起が安定していた。 2)感情タイプ(快・不快)は反復率に影響を及ぼさなかった。 3)青年群では感情強度の強い事象や重要度・影響度の高い事象が,繰り返し想起されやすかった。 4)壮年群では感情強度や重要度・影響度と安定性の関連は曖昧であった。壮年群での想起の安定性は出来事の特性に規定されるのではなく,むしろ,現在満足度等の個人差変数に規定されることが示唆された。 5)青年群の壮年群も過去を想起することに対して,「現在の問題解決に有効」「他者を楽しませたり経験を教えるのに有効」といった機能を感じていた。また青年群では「将来のことを考える」という機能が,壮年群では「喪失感を緩和する」という機能が認められた。
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