研究概要 |
他者からの拒絶体験をもつ学生の対処過程とアイデンティティとの関連を、大学生活における体験と心理検査を指標に縦断的に検討することが研究の目的である。平成10年7,12月大学生278名(男184名・女94名,平均18.6歳)に質問紙を施行、内52名の1年生(男女各26名)に対して半構造化面接、Rorschach Testと箱庭制作を行った。結果は以下の通り;1.拒絶体験ありとした学生は120名(男52名・女68名)であり、女性が有意に多く「あり」と回答した(p<.05)。その内容は、(1)揶揄されるラベル(優等生・いい子など)の押しつけ、(2)仲間・友人グループからの排除、(3)権力をもつ者(教師や部活の先輩)による不合理な扱い、(4)個性や存在の否定(行動が変だ・周囲の人と考え方が違う)に分類され、これらをふまえて男女差について検討した。2.内容自体は必ずしもネガティヴとは言えない(1)を拒絶と位置づけ、葛藤を引き起こすに至る自我異和的なプロセスとして;a.「優等生」等のラベルが結果として集団からの排除を導くために、拒絶されて嫌だったと感じられる場合、b.自分の中で生起した「本当の姿はそんなではないのに」という気持ちが自我異和的に体験される場合、について面接による情報をもとに考察を加えた。3.対人関係尺度の第I因子「同調強迫」、II「内面の隠蔽」、III「他者への配慮」のうち第II因子について、拒絶された体験をもつ学生の方が「内面の隠蔽」が高い傾向にあった(p<.10)。拒絶をされたことがあるという自己認知が、他者との深い関わりを恐れる傾向へと結びつくことを示唆する結果である。また拒絶された体験をもつ学生の自尊感情得点は、なし群に比べて有意に低く、スティグマを負う人の自尊感情は低くないという先行研究のレヴューとは異なる結果となった点について、大学生の特質に照らして検討した。今後、心理検査データと対処過程との関連の分析と、52名についてのフォローアップ調査を行う。
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