研究概要 |
本研究の目的は,我が国の大学評価・改革の推進政策が、私立大学に対してどのようなインパクトを及ぼしたのかを検討することであった。中心となった作業は、広島大学大学教育研究センターが1998年に行った「大学評価に関する全国調査」の再分析であった。この分析を軸に,私立大学が急速に発展している中国、国立大学の企業化が積極的に試みられているオーストラリア・ニュージーランド等での学会発表及び比較のための意見交換を進め、成果を高等教育学会、大学評価機構国際ネットワーク(INQAAHE)、広島大学などで発表、出版した。また、必要に応じて、専門的知識の供与の依頼や、大学へのインタビュー調査を行なった。得られた結論の要約は以下のとおりとなる。 自己点検・評価に重点を置き、分権的で内部評価志向であるところに特徴を持つわが国の現行の大学評価システムは、結果として評価の手法や重視する指標に関して大学間に非常に大きな多様性を生んだ。私立においては、入学・卒業に関する指標が重視され、入学志願者の動向や卒業生の就職実績がそのまま大学の収入や経営実績として大きく意味を持つ私立大学の評価の実態が浮かび上がった。わが国の評価の問題は、国立大学と私立大学という大学システムの構造の二重性を内包していることにある。国立大学に対して比較的有効と考えられる西ヨーロッパ型の中央評価システムは、おそらく私立大学の存在のゆえに設立が2000年まで遅れることになった。一方、アメリカ及び東アジアで一般化したアクレディテーション型評価機能も、大学基準協会による基準認定を受けないことの社会的サンクションの不明瞭さによって多数の不参加大学を生んでいる。この中で、事実上選択されたのが自己点検・評価重視の評価政策であり、これは実施したか否かだけを見れば、絶対多数の大学において何らかの形で実施されるまでに定着した。
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