本研究は、現代アメリカ合衆国における公教育思想の展開を、その論争史において独自の位置を占めるハンナ・アレントの思想とその影響に着目して、明らかにしようとするものである。本年度は、特に、1950年代におけるアレントの公共性論の形成過程を分析した。1999年8月と2000年3月にドイツ連邦共和国におけるオルデンブルク大学ハンナ・アレントセンターを訪問し、そこに所蔵されている未公刊の草稿等を入手し、分析の作業を行うことができた。その結果、アレントの公共性論が、ハイデガーおよびギリシア思想との関連においてだけではなく、そのユダヤ、ヘブライ的な思想との関連において形成されたものであることが明らかとなった。とりわけ、そのユダヤ、ヘブライ的な観点においては、教育の位置づけがきわめて重要な位置を占め、したがって、公共性と教育との連関が密接なものであることが明らかとなった。これは従来の政治思想史の政治思想史研究においては十分ではない新たな知見である。
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