本年度は、沖縄のシャーマニズムとエスニック・アイデンテイティの関係を、シャーマニズムの「政治性」という観点からより深く考察した結果、以下のような結論に至った。 1.現在、沖縄におけるシャーマニズムの変容は、「沖縄(人)」というエスニック・アイデンティティの再構築の動きへと収斂している 2.シャーマニズムの今日的現象として、沖縄以外の地域でも、シャーマニズムがエスニック・アイデンティティの再構築を促すという現象がみられる 3.シャーマニズムがエスニック・アイデンティティの再構築を促し、そのエスニック・グループの象徴となるのは、シャーマニズムが従来の権力(為政者など)に対する反権力装置となりうるからである 1.に関しては、前年度、沖縄ではグローバリゼーションのもと、ユタ(シャーマン)によるシマ(村落)を超えた日本や世界、あるいは宇宙の中での「沖縄(人)」の古さ・正統性を主張する動きが進行していることを指摘した通り、一見沖縄のシャーマニズムはニューエイジ文化などの影響で新たな展開を迎えたようにみえるものの、その変容は実はエスニック・アイデンティティの再構築を目指すものということを明らかにした。また、2.に関しては、例えばモンゴルや旧ソ連、中南米などにおいて、民族主義の高まりの中、シャーマニズムの復権がみられるなど、シャーマニズムは今や沖縄以外でもエスニック・アイデンティティの再構築を促していることを指摘した。そして、3.において、世界システムの中でシャーマニズムが、少数民族などいわゆる「弱者」にとってエスニック・アイデンティティの再構築を図るための戦略的表象となっているのは、もともとシャーマニズムに、従来の権力(国家や為政者などいわゆる「強者」)に対する「反権力装置」としての側面が内包されているからであると結論づけた。
|