昨年度に引き続き、19世紀前半のアメリカの他者認識、特にアジア太平洋地域に対する認識が現れている書物、記録を収集した。特に、当時アメリカ合衆国の中でもアジア太平洋地域に関心を抱いていた人々が比較的多く居住していたニューイングランド及びニューヨーク地方の商人によって、広東に代表される東アジアの貿易港へ派遣された商船の航海記録、彼らに対する資金提供者からの命令書、及び同地方に本部をおく宣教師団から派遣された宣教師と本部とのやり取りの記録を中心に精力的に収集した。それらを、東京大学付属アメリカ研究資料センター等の国内の研究機関所蔵のマイクロフィルム資料と合わせて、通読し、当時、アジア太平洋に関心を抱いていたアメリカ人が、どのような視覚で当該地域を見ていたのか、そのような見方が、どのように変化していったのか、また、イギリス人の抱いていたアジア太平洋認識といかに異なる「アメリカ的」認識を形作っていったかを中心に検討した。特に、通常の東廻りの航路をとった船と、あえて西廻りの太平洋経由の航路を選んだ船との視覚の違いに着目し、アメリカ独自の太平洋周りの航路をとった人々の記録を精読した。その結果、彼らがどのようなイメージをもって太平洋からアジアへと向かったのかが、アメリカ独自のアジアに対する他者認識を解く鍵になるという感触を得た。今後は研究の対象時期を拡大し、南北戦争を経て、アメリカが「国民化」を迎え、そして、アジア太平洋地域へと物理的に拡張していく時期である19世紀後半の、アメリカのアジア太平洋観について研究を継続したい。
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