縄文時代の人々は狩猟・採集が生活の中心であったので、彼らの生活・文化を考えるためには当時の主要な生業の一つであるシカ狩猟の季節性を調べることが有効な手段となる。そこで、遺跡出土のシカについて新たに死亡季節査定基準を作製し、それを用いて、縄文時代の遺跡から出土した資料の検討を行うことが本研究の目的である。1998年度には多数のシカ現生資料を観察・分析して、その結果を基に肉眼観察による顎骨の歯の萌出・交換状態を用いた死亡季節査定の基準をほぼ作り終えており、1999年度にはこれを完成させて、査定の誤差(個体差や雌雄差によるずれ)についても検討した。個体差については第3後臼歯では比較的大きくなるが、雌雄差は特に認められなかった。 また、北海道及び本州の縄文時代遺跡(17遺跡)出土のシカ資料について上・下顎骨の観察を行い、後臼歯萌出段階による分類を行った。その結果、本研究で作製した死亡季節査定の基準が有効な幼・若獣の出土数が少ないために、シカ狩猟の季節性を議論するには十分でない遺跡も多かった。しかし、北海道の遺跡では十分な個体数が出土している場合が多く、これらの遺跡では全て1年を通じてシカ狩猟が行われていることが明らかとなった。さらに同じように通年狩猟を行っている場合にも、遺跡によってシカ狩猟に若干の季節性の違いが見られ、内浦湾沿岸部の遺跡では秋期にシカを多く捕獲するが、津軽海峡沿岸部の遺跡では冬期にシカを多く捕獲する傾向があることがわかる。
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