日本列島各地の最古級の石刃技術を保持する石器群の報告書等の文献資料を収集するとともに、一部資料については実見を行なった。その結果、いずれの資料も東京都杉並区高井戸東遺跡X上層と極めて類似する石器組成・石器型式・剥片剥離技術をもつことが判明した。したがって、列島最古の石刃石器群は、南関東の立川ローム第X層上位、約3万3千年前(AMS法による)に出現する可能性が高いと判断される。中期旧石器時代末とされていた長野県飯田市石子原遺跡等の石器群にも、石刃様の縦長剥片や断面三角形の基部調整石器など、高井戸東遺跡のものと類似する資料がみられることから、これと同時期もしくは若干古い時期のものと判断された。 中国北部、朝鮮半島の資料については関連文献の読解を進めた。その結果、中国では河北省新廟荘遺跡の資料が、石刃状剥片を全剥片の8%ほど含むことから、重要な位置を占めることを再確認した。また、同遺跡の年代測定用試料を入手し、現在年代測定中である。 朝鮮半島では、韓国クム洞穴、石荘里などの資料が依然重要である。また近年、発見が増えている剥片尖頭器石器群が基本的に石刃石器群であることから、より古期から石刃技術が盛行していたことをうかがうことができることも認識した。 また、本研究により、日本列島、中国北部、朝鮮半途の出現期の石刃技術は、基本的に、直方体(レンガ状)の石核を用い、その狭長な木口面から石刃を剥離する技術であることが判明した。さらに、基部調整ナイフ形石器、断面三角形の基部調整石器、石刃素材の掻器という互いに近似した石器の器種組成を共有していることも明らかにできた。このことから、各地域の石刃技術およびそれを含む旧石器文化は地域間交流の結果、東アジアの広い範囲に拡散するとともに、各地域の環境差などから、石器群の構造や表現形が異なっているという、仮説を提示したい。
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