研究概要 |
アメリカ文化において、女性像を構築していく原動力を提供してきた1792年に創刊されたアメリカの女性大衆雑誌は、その役を1950年代にテレビなどの他の媒体に譲ることとなる。創刊から50年代までのアメリカ女性大衆雑誌の歴史は大きく3期に分けられる。平成11、12年度の研究においては、たかまってきた女権拡張運動の兆しと南北戦争をはさむ激動期を背景にしながらも伝統的で保守的な女性像を提供し続けた第1期に属するGodey's Magazineと、第2期に「Big Six」と呼ばれ、白人中産階級の女性文化への影響力がとくに著しかった6誌のうちのPictorial Review,McCalls,Good House keeping,Ladies' Home Journalの4誌を、第一次大戦までの時期に発行されたものに限定して考察してきた。芸術、文化、文学、ファッション、料理掃除を含めた家事・子育ての方法、商品の広告やダイエットといった健康への志向などに関するさまざまなレベルのディスコースの個別研究を越えて、それらが交差する領域を細部にわたって分析することで、アメリカ女性文化を再構築することを目指している。この研究は、1つの文化や時代のイデオロギーが特定領域のディスコースとしてのみ表出されるのではないことを証明することと、その結果、アメリカ像の新しい側面を明らかにすることを目標としている。たとえば、研究成果は、現在ハイカルチャーの一形態とみなされている小説が、購買力を維持するための最大の戦力として大衆雑誌に初出されたイデオロギーの産物であることを無視し、独立した芸術形態として作品を論じがちな研究にたいする警鐘ともなろう。雑誌の内容が膨大な量であるとともに、1次資料を有効に分析するためには2次資料分析も必須であることから、今後も継続してさらなる分析をおこない研究成果を発表していきたい。
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