研究概要 |
支配株主の情報開示義務の問題については、アメリカの学会でも未だよく議論されていないようであるが、そのような義務は支配株主の信認義務の脈絡に位置づけられるようである。判例上、そのような義務を見出することも困難を極めたが、一応、支配株主の情報開示義務は、会社に対する開示と少数派株主に対する開示に分けられる。 少数派株主に対する開示について判示したものに、Grant V.Winstead,476 So.2d 36(Åla.1985)があるが、そこでは支配株主の情報開示義務については否定されている。 一方、会社に対する開示については、デラウェア州の裁判所において肯定的に示唆したものがある。Thorpe V.Cerbco,Inc.,676A,2d,436(Del.Supr.1996)は、East社の支配権獲得を目論むINA社がEast社の親会社であるCerbco社の取締役Erikson兄弟に交渉を申し込んできたところ、たまたまそのErikson兄弟がCerbco社の支配株主でもあり、Erikson兄弟はCerbco社における自己の支配株式をプレミアム付で売却することだけを優先し、Cerbco社の取締役会に情報開示せず、結局、Cerbco社がそのEast社株式をINA社に売却する交渉の機会を奪ったケースである。裁判所はErikson兄弟は、Cerbco社の取締役会に対して、INA社がEast社の支配権獲得を目論んでいることについて情報開示すべきであったと述べている。ただ、支配株主としてのErikson兄弟は、Cerbco社が保有するEast社株をINA社に売却することについては、デラウェア州法271条に基づき、拒否権を有していたので、いずれにしても、Cerbco社がそのEast社株式をINA社に売却することは不可能であったことを考慮すれば、Cerbco社に取引上の損害は発生していないと判示した。 この判決は、支配株主が、同時に取締役でもあったため、判示されている義務が、支配株主としての義務なのか、取締役としての義務なのか、あるいは両方を含むのか、いまひとつ判然としないが、支配株式の譲渡の場合において、支配株式取得を目論む者に関する情報の会社に対する開示の必要性について、アメリカ、しかもデラウェア州の裁判所において議論されていることを見出せたことは意義深いものがある。
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