本年度は、大学受験を巡る重要な論点の中で、以下に述べるような側面について、理論モデルの構築、独自の資料の収集及び分析を行った。(1)学生の質を測る尺度が複数あり、それぞれ計測にかかるコストが異なるとき、大学が行う入学試験の内容は、大学や社会が求める人材の基準と必ずしも一致しないことを理論的に示した。ここから導かれる仮説を、現在整埋・入力中の大学受験データ(受験科目と大学の学部・学生の就職先)から検証するべく、現在作業中である。(2)日本固有の現象として、大学の序列や、私立大学の授業料および質がどのようなメカニズムで決定されているか、大学間の競争をモデル化した。そこではFernandez and Gali(1999)のモデルを応用し、更に大学間には資産や質の差があること、国立大学の授業料は政策的に低く設定されていること、受験生は、大学の質、授業料の高さ、受験の厳しさ(偏差値)を比較しながら、自分の進学先を決定していく、ということが考慮されている。その際、授業料は、大学生にとって「受験の厳しさ」と代替的なコストであることになり、「人気の高い大学ほど授業料が安い」ことが、市場均衡として導かれる。この場合、受験競争が効率的かどうかは、(1)で考察しているように、試験での得点と杜会での実際の生産性との相関関係による。実証的には、現在、大学の研究費、授業料、偏差値、卒業生の就職先、大学入学者の高校間分布などの資料を用い、受験生の行動モデルの検証及び大学の質と価格の市場均衡値の計測について、検討を加えている。
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