研究概要 |
本研究の主な目的は,上海市と北京市におけるインフォーマル・セクターの分布状況,経済的特徴,拡大のメカニズム,労働市場の構造などについて,既存のさまざまな人口・労働力の調査資料に対する総括的な分析を通して,それらを実証的に解明することである. 「上海市1995年流動人口調査」の個票を利用した分析の結果から幾つかの暫定的な結論を引き出すことができる.まず第1に,上海市の出稼ぎ労働者は,割合高い教育を受けた青壮年の男性が主流で,全体の2割強が非農業を前職に持ち,6割強が結婚している,というような全体像を有している.彼らは主として1990年代以降上海市に流入し,公的な就職斡旋組織が欠如している中で,大半は地縁・血縁関係に頼るか,自力で仕事を見つけている.上海市での滞在先にも出身地別の棲み分けがみられる. 第2に,自ら商業とサービス業などを営む3割近くの出稼ぎ労働者を除いて,大多数は,工場・建設業等の工員・作業員として都市住民の敬遠する仕事に就いており,労働市場における都市住民との棲み分けが出来ている. 第3に,賃金曲線の形や月収関数の計測結果などから,個々人の人的資本が月収に相当反映されているところから,出稼ぎ労働者による労働市場がすでに形成され,労働力資源の配分に対して,それが大きな役割を果たしているといえる.しかし一方では,戸籍や出身地の相違により参入できる業種や職種,居住する区域などが明らかに異なっているところから,出稼ぎ労働者に関する労働市場がかなり階層化している側面も否定できない.
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