本研究の目的は熟練と量産システムの共進化メカニズムを解明することであった。すなわち、熟練技能の組織的作業や機械・プログラムへの変換過程および機械や作業マニュアルによって熟練が変化していく過程を知識変換過程として捉えて、それら二つの過程の詳細を明らかにすることである。平成10年度は、経営組織論、経営戦略論の視点から概念的枠組みを洗練することから、インタビューや企業訪問での予備調査による作業仮説の特定を行なった。こうした理論的フレームを組織学会定例研究会と名古屋大学経済学部研究会において報告し、他の多くの研究者からの多彩な見解を聴取した。平成11年度は、エンジニアリング産業での熟練、およびセールスなどのホワイトカラーを調査し、熟練技能の育成と活用に影響を及ぼす組織的、戦略的要因を推定してきた。2年間にわたる本研究の成果として以下のような事項があげられよう。(1)熟練の本質的性質が「特定の文脈を超えたポジティブな適応」にあり、その際に必要となる能力が「概念化能力」にあること。(2)熟練者技能と組織化や機械化を特徴とする量産システムの相互に影響しあう経路には、(a)熟練者自身による自省的効果、(b)機械やシステムの型による効果、(c)作業者同士の社会的学習効果があげられること。(3)方法論的な基本方針は「二角測量法的手法(triangulation)」によって、一つの方法に頼らず、複数の視点と方法から現象を分析を実行し、総体的、多角的に熟練をとらえられたこと。
|