本年度はシンガポールの日系企業地域統括拠点を対象に、その人事教育・管理システムの導入状況、その問題点、ならびにシンガポール政府の開発・人材育成支援策との関連についての聞き取り調査を実施した。調査対象は製造業6社である。シンガポール国内におけるローカルホワイトカラーの人事管理手法については、採用・初任賃金決定は全般的に現地の手法を取り入れる傾向が強いが、その後の評価・昇給決定については一様ではない。教育訓練については、どの企業も積極的な姿勢を示しており、プログラムの現地化、教育スタッフの現地化などが推し進められている。シンガポール国内の教育システムについては、各社とも政府からの資金援助プログラムをよく検討しており、コスト削減や政府からの援助受給資格を得ることの広告効果などが認識されていた。 さらに製造業6社のうち4社が域内の人事・教育に関する統括・調整機能をも有していた。域内の人事管理の統括・調整機能としては、グループ企業間での賃金レベルの調整、評価基準の統一などがあげられる。人事管理の統括にあたって、地域統括拠点は各国拠点のトップマネジメントがローカルである場合に、その評価・任免について権限を保有する。調整という場合には、評価・任免に関しての権限をもたず、人事システムの開発や導入、情報提供などのサービス機能に特化する傾向が強い。この場合、人事に関わる権限の多くは日本、特に事業本部に属していることが多かった。人事をめぐる権限の分布は本社、或いはその世界事業に関する組織特性と密接に関連しているものと推測された。一方、教育・訓練については、権限の分布状況と関与状況はあまり関係ない。実際には、各拠点からの教育訓練に関する要請が強いため、これらの要請により効率的にこたえるために、統一的なプログラムを実施して事例が多い。また教育訓練の効率を上げるために、各拠点が保有する人材の能力評価を進めている事例も見られた。シンガポールへの地域内教育機能の立地については、直接的な政府による支援策は見られないものの、現状では様々な理由から比較優位が存在する。しかしながら、近隣国の政策や遠隔地教育の技術進歩などから、教育機能が将来的にもシンガポールに立地しなければならない理由は存在しないことが明らかになった。
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