研究概要 |
本研究では,非圧縮性粘性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式の初期値境界値問題の解の存在と正則性を扱った.まず,3次元外部領域を占める流体の運動について,障害物が固定軸のまわりを回転する場合を考察した.この場合,従来の研究によって知られているのは,Borchersによる弱解のみであり,その一意性は不明である.適当な変数変換によって固定外部領域上の問題にかき直すと,係数が無限遠で増大する移流項をもつ線型偏微分作用素が現れる.はじめに,同次Dirichlet境界条件を伴うこの偏微分作用素に対して,L^2空間上での強連続半群の生成,楕円型正則性評価及び分数巾の評価を示した.上で存在が示された半群は,解析的半群とよばれる良いクラスには属さない.しかし,その半群の少し弱い意味での平滑性及びt=0の近くでの評価を証明し,これを有効に用いることにより,H^<1/2>の滑らかさをもつ初期関数に対して,Navier-Stokes方程式の一意解を時間局所的に構成した.また,障害物の回転角速度が時間により変化する問題に対しても,同様な結果を得た.次に,Navier-Stokes方程式の弱解の正則性を考察した.流体が占める領域について,上で扱った外部領域の他に,全空間,半空間及び有界領域のいずれかとする.空間3次元以上の場合,構成された弱解の滑らかさは不明であるが,弱解の滑らかさが示されるクラスはSerrin等により調べられてきた.しかし,L^∞(0,T;L^n)に属する弱解の滑らかさは,現在までのところ未解決である.Kozono-Sohrは,その部分的解答として,弱解u∈L^∞(0,T;L^n)の各時刻での左からのL^n値の跳びが小さければ,uはt>0で滑らかとなることを示した.本研究では,彼らとは異なるアプローチによって簡単な別証明を与えると共に,付加条件を少し弱いものに改良した.
|