研究概要 |
前年度までにレーザーアブレーション法によりMgO(100),Si基板(FTIR-ATR用)上に、プロトン導電性・格子状数の異なるSrCeO_3,SrZrO_3,SrTiO_3を交互に積層させたペロブスカイト型酸化物人工超格子を作製し、超格子にすることで結晶の対称性が向上すること、成長方向・積層周期に依存して歪み量が変化することを明らかにした。また、減衰全反射法(ATR)によって人工格子におけるO-H伸縮振動による赤外吸収を観測し、この方法が人工超格子のプロトンのダイナミクスを調べる手段として有効であることを確かめた。本年度は、このFTIR-ATR法の有効性に着目し、格子歪の異なる試料のO-H伸縮振動を定量的に調べ、格子歪とO-H伸縮振動の関係を定量的に調べた。 Si(111)単結晶基板上に作製した人工超格子はSrCeO_3,SrZrO_3の[211]方向に成長し、SrCeO_3は面内で圧縮、成長方向に膨張し、逆にSrZrO_3は面内で膨張、成長方向に圧縮していると考えられる。Yb^<3+>をドープしたSrCeO_3,SrZrO_3の人工格子は約3050、3450cm^<-1>を中心とした幅の広いガウシアン型のO-H吸収バンドを示し、これらの吸収強度はSrCeO_3,SrZrO_3の積層比に依存していることから、低波数側、高波数側のバンドはそれぞれ主にSrZrO_3、SrCeO_3が寄与していると結論づけた。また、これらの中心波数は人工超格子の周期長の減少とともに低下し、その割合はSrCeO_3,SrZrO_3の積層比に依存する。つまり、格子歪が変化するとO-H結合の強さが変化することが確かめられた。一方、この実験で採用した測定条件では成長方向の振動成分に対して感度が高い。このこととSrCeO_3,SrZrO_3の格子の長さの変化から考察すると、人工超格子中のプロトンが水素結合的にO-O間に存在することを裏付ける傾向を示した。
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