研究概要 |
一連の共役鎖長を持つカロテノイド同族体とインダン-1,3-ジオン、そのモノおよびビスジシアノメチレン誘導体とを縮合し新規極性カロテノイド同族体を合成した。これら極性カロテノイド同族体の製造特許を申請した。極性カロテノイド同族体の分子構造を決定したところ、溶液中では6sシス構造を結晶中においては報告例が稀有な6sトランス構造を取っていると言う構造化学的に興味深い結果を得た。極性カロテノイド同族体の非線形感受率の定量測定を行う目的で、電場変調吸収分光装置(Stark分光装置)を製作し、PMMAポリマー膜中に分散した試料の非線形分極率を決定した。その結果以下の事柄が明らかになった。(1)電子吸引性のインダン-1,3-ジオン基を導入することにより非線形分極率が増大した。特に2次超分極率の増大が顕著であった。(2)ポリエン部の共役鎖長が長くなるにつれて非線形分極率は増大した。(3)シアノ基を導入することにより非線形分極率は更なる増大を示した。興味深いことにジシアノメチレン基を一つ導入したモノジシアノメチレン誘導体(C20MDCInd)が今回調査した極性カロテノイド同族体の中で最大の一次分子超分極率(β値)を与えるのに対して、二つ導入したビスジシアノメチレン誘導体(C20BDCInd)が最大の二次分子超分極率(γ)を与えた。極性カロテノイド同族体の静的な非線形分極率の大きさをAM1ハミルトニアンを用いた半経験的分子軌道計算(MOPAC97)により予測した。β値に関して分子軌道計算により予測した値と実験結果とは良好な比例関係にあり、半経験的分子軌道計算を用いてβ値が定量予測可能なことが示唆された。特に、C20MDCIndが最大のβ値を与えると言う実験結果を理論予測が完全に再現した点は注目に値する。γ値に関しては、C20BDCIndを除いて理論予測が実験結果を再現した。一般に分子軌道計算による二次分子超分極率の予測は満足な結果を与えないと言うのが通説になっているが、今回合成した一連の極性カロテノイド同族体の場合は必ずしもその限りでは無いことをこの結果は示している。つまり、分子軌道計算が三次非線形光学材料の開発に対して一定の指針を与えてくれるものと期待され、本研究課題の目的が達成できた。
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