科学研究費補助金交付時に平成11年度の研究計画として以下の2点を取り上げた。[1]金属相における有限温度の軌道状態と軌道の自由度のある系における相転移、[2]金属相におけるスピン、軌道励起。[1]については、昨年度開発した理論的計算手法をもとに有限温度、有限キャリアーにおける軌道状態について計算を行った。これにより(1)軌道秩序・無秩序転移は一般的に一次相転移であること、並びに(2)異方的なスピン構造に対する磁気転移温度は、軌道相転移温度より低いことが示された。これらのことはスピン構造の対称性と軌道空間の対称性から導かれる一般的な結論であり、現在までに知られている多くのマンガン酸化物の金属相の振る舞いを説明するものである。また巨大磁気抵抗効果(CMR)は軌道秩序・無秩序転移近傍で出現していることから、ここで示された一時相転移がCMRの起源に大きな寄与をするものと考えられる。以上の解析を更に層状構造を持つマンガン酸化物に適用し、その強磁性相の出現に対しては2つの軌道の混成が重要な役割を果たすことが理論的に示された。研究計画[2]については、上述の計算手法を用いて金属相における軌道の揺らぎ・励起と磁性との関係を調べた。温度の上昇に伴って層状反強磁性相から強磁性相への転移が見られるが、これは軌道の揺らぎにより生じるものであることが示された。これは最近なされたNd_<1-X>Sr_XMnO_3における中性子散乱実験の結果を説明するものである。さらに上記の2つの研究課題に関連して、軌道状態を直接観測する手段である共鳴X線散乱法に間する理論を発展させ、その結果は現在雑誌Physical Review Lettersに投稿中である。
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