本年度は、前年度に引き続き電荷密度波における位相欠陥の静的・動的性質を中心として研究を進めた来たが、特にこれまで十分に考慮されていなかった準粒子励起による非線形応答の効果を調べた。得られた主な結果は次の通りである。 1.電荷密度波に対する横電場(1次的な伝導軸と垂直な方向にかけられた外部電場)効果における準粒子励起の寄与を調べた。それによると、伝導鎖内で横電場によって生じる静電位の上昇が、エネルギーギャップの1/√<2>になると電荷密度波の秩序自体が不安定になってしまう事が分かった。秩序が不安定化すると正常状態への転移が起こり、その領域で横電場の遮蔽効果が生じる。この状態は我々が従来指摘していた、位相欠陥の導入によって生じる混合状態とは競合関係にあり、物質パラメターによってどちらの状態が選択されるかが決まる。我々は、磁場中の超伝導体との類推により、正常状態が形成されるものを「第1種」、混合状態が生じるものを「第2種」の電荷密度波と呼んだ。 2.滑り伝導いにおける位相欠陥の重要性は従来から指摘されていたが、我々はスペクトラルフローという欠陥の中心で起こるミクロな現象に着目した。スペクトラルフローは凝縮体の内部と準粒子との間で粒子数の交換を起こす過程であり、このために電荷密度波の位相欠陥は超伝導などの渦糸よりも強く準粒子との結合をすることになる。具体的には滑り伝導において、準粒子の非平衡分布が、位相欠陥の運動の駆動力となることが分かった。このことは現在まで行われてきた現象論ではなく、滑り伝導のミクロな記述を確立するうえで重要になると考えられる。この点に関しては現在、継続して研究を行っている。
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