研究概要 |
本年度は,マイクロ波伝搬過程において、重要な超伝導現象と思われる超伝導のグラニュラー性に起因したカイラルグラス転移に注目し、以下の研究を行った。 微小な超伝導グレインが弱く結合したセラミック超伝導体は、グレイン間のジョセフソン相互作用に基づく相転移を起こす系として大変興味深い。特にd波超伝導体の場合は、O接合とπ接合がランダムに共存するために、グレイン間の相互作用にフラストレーションが生じ、通常の電気抵抗ゼロの超伝導状態とは異なる秩序相(カイラルグラス相)が出現すると予測されている。これまでに筆者はサブミクロンサイズのグレインで構成されたYBCOセラミックスを取り上げ、グレイン間秩序化温度Tc2において、非線型磁化率χ_2(<0)が発散する現象を観測し、これらの結果がカイラルグラス転移を示唆することを報告してきた。 本年度は,同様の系について、その秩序状態における熱残留磁化Mrの長時間緩和について調べた。実験では、グレイン間の相転移点Tc2(=55K)以下の様々な温度まで磁場中冷却した後の残留磁化Mrに関する時間緩和曲線を測定した。Tc1以下35Kまでは磁化の減衰が認められ、その関数形は単緩和的でも対数緩和的でもなく、特にTc2近傍では、スピングラス系でよく観測されるStretched exponential関数によく一致する。さらに、磁場中冷却後、磁場の印加を中止するまでの時間(tw)をおいて測定をおこなった。その結果、twの増大に伴って、初期緩和の速度が明らかに遅くなると同時に、関数形が対数緩和型に近づく振る舞いが観測された。後者の傾向は、スピングラス磁性体では見られない振る舞いであるが、カイラルグラスモデルとの関連を今後明らかにすべきである。 なお,これまでの研究は,22^<nd> International conference on low temperature physics(発表番号:7P24,1999年)および物理学会1999年秋の分科会(発表番号:24pPSB36)で報告した.また,現在これらの成果をまとめた論文はPhysica Bから出版予定である。
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