研究概要 |
強磁性体薄膜において観測される磁区構造の,交番磁場下における緩和現象に関する研究を行った.強磁性体ガーネット薄膜は膜面の垂直方向に磁化容易軸を持つため,偏光顕微鏡を用いて直接磁区構造を観察することができる.外部静磁場がゼロの場合に特定の条件下で観測される島状の磁区構造を初期状態として,これがストライプの迷路状構造に変化する過程に関して測定を行った.磁区のストライプ幅は,異方性と磁化によりほぼ一定に保たれるので,今回は,磁区の長さの逆数に相当する島状磁区の数を特徴的な量として測定を行った.島の数は,最初は加える交番磁場の回数に対して指数関数的に急速に減少する.しかし,ある程度減少した後は,交番磁場回数に対してべき関数的なゆっくりした現象過程に変化する.これは,島状の構造が磁区が平行に揃ったストライプ構造に変化する過程が,2段階に起こっていることを意味している.最初の島が繋がる過程,つまり短い帯が発生する過程は試料のいくつかの領域で独立に発生する.つまり離れた2点間には相関がなく,帯の向きは各領域でほぼランダムであると考えられる.この自発的対称性の破れが発生する初期過程は比較的短時間に急速に,つまり指数関数的に進行すると考えられる.各領域の帯の長さが有る程度発達し互いに接するようになると,試料全体に渡って帯の向きが揃い始める緩和過程に移行する.これが,後半に観測された磁区が伸びる過程であり,帯の向きが異なる各領域間の競合であると考えられる.この過程は,各領域の界面間の相互作用が緩和の駆動力となるため,比較的ゆっくりと長時間にわたって進行することになる.このためにべき関数的な特徴が現れたののではないかと考えられる.
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