研究概要 |
非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンを水に混合して得られるミセルは、組成と温度によって様々な自己組織化をすることが知られているが、特に温度上昇と共に通常の球状ミセルが一方向に伸び、紐状となることが知られている。これらの準希薄(数%)以上の組成においては、紐状ミセルが鎖状高分子のように絡み合って存在しており、少なくともその静的な性質は高分子溶液系のスケーリング則で説明できることが分かっているが、動的な性質についてはまだ不明な点が多かった。 本研究では、この紐状ミセル系のセミミクロスケールにおけるダイナミクスを明らかにするために、中性子スピンエコー(NSE)法を用いた。この方法は、セミミクロスケール(0.01【less than or equal】Q【less than or equal】0.25Å^<-1>)における数十ns程度の時間間隔の運動を捉えることができる。紐状ミセルの系は相関距離が数十から数百Å程度なので、この方法によりミセルの集団運動の様子を知ることができる。 実験は原研の研究用原子炉JRR-3M内の物性研のものと、ドイツ・ユーリッヒ中央研究所の研究用原子炉FRJ-2内のものの2つのNSE装置により行った。測定した試料は1.6%,6.4%,12.8%,20%で、温度は35℃と45℃の2点である。得られた中間相関関数I(Q,t)はZilman and Granekのモデルの1次元高分子の場合の式:exp(-(Γt)^<3/4>)で説明できた。フィッティングから得られた緩和係数Γから求めた有効拡散係数D_<eff>の濃度依存性より、希薄・準希薄領域ではミセルの自由拡散が支配的なのに対し、濃厚領域ではreptationが支配的である、と言うことが示唆される結果となった。 今年度は上記の組成に加え、3.2%,9.6%,15.8%の3つの組成について同様の実験を行った。解析についてはいまだ進行中であるが、得られた中間相関関数はやはりexp(-(Γt)^<3/4>)で説明でできることが分かった。今後の解析、及び理論的な考察により、紐状ミセルの運動の特徴について明らかにできるものと考えられる。
|