研究概要 |
本年度の研究は、アルケノンの分析化学的な側面に焦点を当てた。まず実験室ブランクおよび回収率、再現性などのチェックを行い、それらが本研究計画におけるアルケノンおよびその他の脂質化合物の分析に十分耐えうることを明らかにした。さらに世界中のアルケノンを分析している研究室間においてインターキャリブレーションを行った結果、当研究室におけるアルケノンの抽出方法および分析方法の妥当性が確認された(Rosell-Melle et al.,1999)。その上で、サンプルとして北太平洋域で採取された懸濁態粒子中に含まれるアルケノンと、南極海表層堆積物中に含まれるアルケノンを分析した。前者は現在の北太平洋海水中におけるアルケノンの分布や挙動を知る上で重要な情報を提供するものと考えられ、後者は堆積物中に保存されているアルケノンが現在の表層水温とどのように関係しているのかについて確認を行うことができる。残念ながら北太平洋の懸濁粒子中にアルケノンはほとんど見出されず、アルケノンの分布や挙動に関する情報は得られなかった。また南極海(Australian sector)を緯度方向に極前線またぐ9地点(47°S-65°S)の表層堆積物の内、7地点からアルケノンが検出された。その不飽和度(U^K_<37>)は0.43から0.09まで緯度が高くなるにつれて減少し、生育水温に換算すると11,5°Cから1.5°Cまで低下している。その水温をが主として夏季の表層50m以浅のものに匹敵することから、アルケノンの生合成が主に夏季の表層50m以浅で行われていることが示唆された。南極海は本研究の研究海域である北太平洋と緯度的にはほぼ等しいので、この結果は北太平洋にも応用できるものと考えられる。
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