研究概要 |
安定な超高スピン有機分子の開発と新規な量子効果の出現を目的とする基礎的研究として、高い対称性を有する高スピン有機分子を分子設計・合成し、ESR法・二次元電子スピンニューテーション(2D-ESTN)法を用いて電子状態・分子構造を調べた。LUMO近傍に3つのの擬縮重分子軌道を有するデカサイクレンは、金属接触を用いた多段階還元により生成する3価のアニオン状態においてLUMOに導入される電子スピンが電子対を作らず、基底状態において4重項状態を形成することを示した。そして、ESRスペクトルから決定した微細構造定数をもとに4重項状態における電子構造を明らかにすると共に、電荷の揺らぎとスピン分極の相関を検討した。一方、テルフェニル或いは1,3,5-トリフェニルベンゼンなどのポリフェニルを骨格に複数のニトレン前駆体を導入した分子を合成し、超高圧水銀ランプを用いた光照射により生成する高スピン分子の電子・分子構造を微細構造ESRスペクトルの測定から明らかにした。特に、1,3,5-トリフェニルベンゼンを骨格にもつトリニトレン高スピン分子が基底7重項状態であることをESRスペクトルの温度依存性から証明し、スペクトルシミュレーション法により決定したトリニトレンの微細構造定数からその分子構造の対称性が低下していることを示した。また、2D-ESTN法が異なるスピンの混在系や複雑な超微細構造を示す系に適用し、複雑なESRスペクトルの分離・同定に有用であることを示した。ESTN分光におけるニューテーション周波数が遷移モーメントと密接に関係していることを理論と実験の両面から明らかにし、ニューテーション分光法を準位間のエネルギー差により遷移を区別する従来の分光法と異なる新しい遷移モーメント分光法として確立した。
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