5次光学応答の重要性の一つは、従来の吸収スペクトル・3次非共鳴応答などは違い2次元的なスペクトルが得られるということである。同様の認識は数十年前よりNMRの分野でされ始め、その重要性は創始者にノーベル賞が与えられていることからも明らかである。我々は、このいわば「2次元NMRの光学版」としての側面に早くから注目している。光を使うことの利点はNMRには期待できない早い時間分解能である。実際、昨年度はテラヘルツパルス源をもちた溶液2次元分光法を提唱した論文を発表し、また5次分光法を複雑分子の構造解析に利用できることをまとめた論文を提出していた。後者も今年度、正式に発表され世界の研究者の知るところとなった。また、今年度はあらたに溶液からのフォトンエコーを2次元的に測定し、解析することの重要性を明らかにする論文を発表した。さらに、国際学会において我々の近年の成果を発表することなどにより、今後の研究に重要な、他の研究グループ、特に実験グループからの刺激を受けることもできた。 昨年度に続き3次光学応答のMD計算も行った。この研究は5次光学応答の分子レベルからの解析的理論を作るには避けて通ることのできない重要な問題である。このMD計算によって、我々の提唱していた世界ではじめての分子レベルからの解析理論の妥当性が示され、ようやく5次応答の分子レベルの解析的理論への道がつけられた。今後は、この研究を出発点として、分子レベルから液体論的要素を取り入れた理論の構築に挑戦していくつもりである。
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