研究概要 |
本研究では酸化還元状態を安定に与える新規なovercrowded ethylene類を合成し,中性状態間及び中性状態とイオン化状態間の相互変換により誘起される構造変化や電子状態の変化に基づく,分子スイッチ等の応答分子系を構築することを目的とした.本年度に於いては,種々の官能基の導入が可能である電子供与性分子として、チオフェンが縮合した4,4'-ビチアピラニリデン誘導体の合成を検討した.ジチエノチオピランから誘導されるチオピリリウム塩,ケトン,チオケトン,ジブロモ体を合成し,様々な条件下でのカップリング反応を試みたが目的化合物は得られなかった.一方,チオピラン部を酸化してスルホンとした後、4位をチオケトンとし,亜リン酸トリエチルによるカップリング反応を行ったところ収率良く二量体を与えた.しかしながら,スルホンからスルフィドへの還元が困難であり,現在のところ目的とする4,4'-ビチアピラニリデン誘導体を合成するには至っていない.そこで新たに,チオピラン部の硫黄原子の代わりに1,3-ジチオール-2-イリデン基を導入することを目的に,その前駆体となるチオフェンが縮合したジフェノキノン誘導体の合成を検討した.この新規ジフェノキノン誘導体は,対応するフェノールの酸化的カップリングと続く脱水素反応により得られた.興味深いことに,この分子の電子スペクトルや酸化還元挙動を調べた結果,類縁体であるビアントロンとは明らかに異なる特徴を有することが見い出された.従って,更なる官能基化を施すことなどにより新しい物性の発現が期待される.現在目的化合物への誘導とともに,このジフェノキノン誘導体の構造と性質について検討を行っている.
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