層状水酸化銅Cu_2(OH)_3X(X=ゲストアニオン)は、銅水酸化物2次元面がXによって隔離されたような構造をとる。この物質の磁性は層間に存在するXのや凝集状態によって常磁性、反強磁性、メタ磁性、弱強磁性と多彩に変化することから、機能性物質の成分として有用である。この磁性変化の原因は層内の銅イオン間の相互作用が磁気的に敏感なCu-O-Cuの構造変化に大きく依存するためである。これまでの研究でアゾベンゼン誘導体を含む層状水酸化銅を有機溶媒中に浸しておくだけで、層間有機分子凝集層が交互単分子膜-二分子膜構造相転移を起こし、それに応じて水酸化銅層の磁性が常磁性と強磁性の間を切り替わる現象を見いだしている。 本年度は光照射により動的な磁性の変化を示す物質の創成を目指すため、銅水酸化物層間にアゾベンゼン誘導体を取り込み、アゾベンゼン部位の光誘起構造変化の際に層の磁気的性質がどのように変化するかについて検討した。アゾベンゼン誘導体としてはアゾベンゼン部位とカルボン酸部位の間に長さの異なるポリメチレン基を導入したものを数種類調製し、インターカレーションを行ったのち、光異性化反応を試みた。その結果水酸化銅層間でアゾベンゼン部位のcis体への異性化を成功した。しかしながら可視光を照射してもtrans体への逆反応は起こらなかった。磁気測定を行ったところ、光照射前後の間で磁化率に有意は認められなかった。この理由はアゾベンゼン部位がポリメチレン鎖により磁性層から遠ざけられ、光反応による構造変化が層に届かないためと考えられる。今後水酸化銅層間にアゾベンゼン以外の光機能性分子を取り込むことで、光で磁気特性が制御できうるユニークな材料の創成が期待できる。
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