研究概要 |
2次元かごめ格子構造をとる磁性元素が軌道秩序することによる新奇なスピン一重項状態について実験的知見を得るため、モデル物質としてAV_6O_<11>化合物(A=Na,Sr,Pb)に着目した。本研究では良質な試料作成を行い、電気的・磁気的測定によりマクロな系の電子状態を明らかにし、さらに核磁気共鳴測定(NMR)により2次元かごめ格子における量子効果とその基底状態を微視的な観点から明らかにすることを目的とする。まず、X線回折の結果、Na,Sr,Pbそれぞれの化合物において245K,320K,560K(以下T_tとする)で構造相転移が存在することが明らかとなった。この温度T_tではさらに磁気相転移もともなっていることが、SQUIDによる帯磁率測定により明らかとなり、常磁性状態をになうスピン数の目安となるキュリー定数がT_t以下で急激に減少していることが明らかとなった。このことからかごめ格子構造を取るV(1)サイトが、T_t以上で有限のスピンをもって常磁性状態にあったものが、T_t以下でトライマーを組み、かつ非磁性状態になっていることが示唆された。さらにこれを微視的に確認するため、NaV_6O_<11>化合物について、8T超伝導マグネットを用いたNa核のNMR測定により、ナイトシフトおよびスピン-格子緩和時間(T_1)の温度変化を測定した。その結果、ナイトシフトはマクロな帯磁率を反映して微視的にもV(1)サイトが非磁性状態にあることが確認され、またT_1の温度変化からV(1)サイトがエネルギーギャップをともなった基底状態にあることが判った。また帯磁率とナイトシフトのプロットにより磁化率の軌道項成分を見積もった結果、このV(1)サイトの非磁性状態が3つのV原子の軌道秩序に起因することが明らかとなった。
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