研究概要 |
下垂体を腎被膜下に移植することで血中プロラクチン濃度を上げた雄マウスでは,精巣周囲の脂肪蓄積量の低下がみられた。このとき,血中の遊離脂肪酸濃度の低下もみられた一方で,リポタンパク質のうち中性脂肪の運搬に関与する超低密度リポタンパク質の血中量が増大していた。高プロラクチン血症マウスでは、ヘパリン処理後の血漿中肝トリグリセリドおよびリポタンパク質リパーゼ活性の低下がみられた。またこのとき、肝臓および脂肪組織における両酵素のmRNA量に有意な変化は見られなかった。このほか、血中の高密度リポタンパク質量やコレステロール量、インスリン濃度などは変化がみられなかった。以上の結果から、プロラクチンは組織のトリグリセリドリパーゼの活性を転写後の過程で調節することで、血中の超低密度リポタンパク質(およびおそらくキロミクロン)からのトリグリセリドの組織への取り込みを抑える働きをもつと考えられる。この作用は、授乳期に乳腺へと栄養を選択的に分配するのに有効に働いているかもしれない。またこの作用はインスリンを介したものではないが、細胞のインスリン感受性の変化を介する可能性は今後検討する余地がある。さて、この下垂体移植の効果が現れるのは、7週齢に移植した場合は2カ月程度かかったが,4カ月齢の個体では1カ月以内であった。これは、若齢期では他のホルモンの作用によりプロラクチン作用がマスキングされたためと思われる。 また,ホモロガスなマウスホルモンの投与実験に向けて、プロラクチン・胎盤性ラクトゲン・成長ホルモンの大量生産を進めている。現在は、大腸菌に発現させたリコンビナントホルモンの精製途中であり、今後さらなる精製と機能解析を行った後、生体に投与して脂肪酸代謝への影響を調べる予定である。
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