achatin-Iはアフリカマイマイの神経節および心房から単離された強力な心臓興奮作用をペプチドであり、N末から2残基目にD-Pheを有することが特徴である。一方、全ての残基がL-型であるachatin-IIも同定されていることから、achatin-I中のD-Pheは前駆体中のL-Pheがプロセッシングの過程で酵素的に異性化されることによって生成すると考えられたが、ペプチド中のアミノ酸を異性化する仕組みの詳細は不明である。そこで、このような異性化を触媒する「異性化酵素」を単離・同定し、反応機構を解明することによりペプチド中のアミノ酸異性化の一般原理を確立する方針を立てた。 異性化酵素はachatin-I生成に関わる酵素であるから、achatin-I遺伝子が多量に発現している組織・器官に局在している可能性が極めて高いと推定した。そこで、まずachatin-I遺伝子をクローニングして、achatin-I遺伝子発現部位を特定することを目指した。その結果、achatin-IのcDNAクローニングに成功しachatin-I遺伝子は食道下神経節のpedal ganglion領域のみに特異的に発現していることを、RT-PCRおよびin situ hybridization法によって突き止めた。さらに、もうひとつのD-アミノ酸含有ペプチドであるfulicinの遺伝子はparietal ganglionに特異的に発現していること、および心房にもmRNAが存在することを明らかにし、fulicinは神経ペプチドのみならず心房性ホルモン様物質としても機能している可能性を示した。現在は、achatin-Iの異性化に関与する異性化酵素のcDNAを同定すべく、pedal ganglionとその他の領域に対する高効率DD-PCR法を確立することを主目的として、研究を続行中である。
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